獣医師になったきっかけを教えてください。
高校3年生の時は、僻地、無医村の医者のなるつもりでした。いろいろな本とで会い、農業、自然農法に興味を持ち、人間の健康は健康な食事にあると考えるようになった。結局、医学部をやめて農学部を受験し、国立大学に合格したが、父から猛反対! 家を出て自活しながら大学の通うつもりでしたが、友人に「間を取って獣医学部っていうのがあるよ」と進められ、仕方なく受験。二次試験の願書締め切り当日に、北海道江別にある酪農学園大学を受験→合格、という、ひょんな事から獣医になりました。
動物における中医学の分野に興味を持ったのはいつごろですか?
子供の頃から母親が病気がちで良く一緒に漢方薬局にも行っていました。ですから、東洋医学には早くから興味があり、大学入学後は薬理学教室に所属し、漢方の薬理作用を研究しようとしましたが、当時の教授に「そんなもんで学位が取れるか!」と一蹴。卒業後、東京の動物医療センターに研修医として勤務するようになってからは、子供の頃から身近にあったマコモを、動物の治療にひっそりと使うようになりました。また、たまたま近くにあった鍼用具や、通電刺激の器械を使って、後輩の西依先生と鍼治療の実験的な治療をしたりしましたがいつも残念な結果で、「鍼治療はやっぱりこんなもんか」という印象しか有りませんでした。当時は、独学でやっていらっしゃる先生が少しおられる程度で、理論的に構築されたものはなく、もちろん教育の場もなかったんです。
なぜ興味をもったのですか?
アメリカでの進んだ獣医学を見たり、東京で開業してからは、現代医学の限界を肌で感じるようになってきました。病気のどうぶつ達に、辛い検査や手術を施しても、細胞学的な診断が着かなければ命が救われないし、手の施し用がない事だってまま有ります。そこで、やっぱり「東洋医学をもう一度やりたい!」と、強く思うようになりました。そして、運命的な温先生との出会いが生まれました。ペットショップで買ったMダックスのキティちゃんがジステンパーで亡くなりました、入院中、マコモを一生懸命飲ませて回復を祈りましたが残念でした。亡くなった後に飼い主さんがその事を知って「東洋医学に興味が有るなら…」と、温先生の日本でのセミナーを教えて下さいました。その方は、コーディネーターの方でした。二つ返事で「行きます!」と答えていました。それが1995年のことです。早いもので来年は20年になります。いよいよ母校でも学部の選択授業に、獣医東洋医学(獣医中医学)が始まります。20年前には、想像もつかない事です。当時は私も漢字がまったくわからないくらいでしたからね!
臨床現場で「やっぱり中医学はここが面白い!」と思えるような時はどんな時ですか?
面白い、と思ってやった事は有りませんが、素晴らしいと思う事は毎日のように有ります。その一つは、『現代医学が心とカラダは別も』とする二元論に対して、中医学は『心身一如』とする点です。どうぶつは人間に言葉で自分の要求や心身の状態を伝えられない代わりに、体全体や脉でそれを我々獣医師に伝えようとしてくれています。それを解ってあげなくては、真の医療者とはいえないんじゃないでしょうか?脉は本当に大事です。
中獣医師として心がけていることはなんですか?
自分の心身の健康、家族の健康です。それなくしては、的確な診断や治療は行えません。ただ、最近は忙しすぎるのとじじぃ街道まっしぐらなので以前のような訳には行きませんが、毎朝の煉功とマコモを1日6〜7回は飲んでいます。時間のあるときには、からだの調整をかねて気功の走法で3〜6キロ位走っています。
今までに思い出深い患犬(や猫)についてエピソードを教えて下さい。
患者さんの事は、一頭ずつ、お一人ずつが全て素晴らしいストーリーですね。
一番最近の話しですが、以前クリニックのマンションの隣の部屋に済んでおられ、結婚、出産を機に引っ越された飼い主さんで、可愛い7才の雌のネコちゃんを飼っておられました。一ヶ月前に電話で「眼に悪性らしき腫瘍ができ右の首のリンパ節もゴツゴツと腫れて来た。高度医療センターを紹介されたけど、診察でふつうの病院に行くだけでもストレスでぐったりして、行くたびに食欲もなくなり、今では無理矢理食べさせないとまったく口にしなくなった。カラダに優しい鍼灸を受けさせてあげたい」との事でした。小さい自分からそのネコちゃんの事は知っていましたし、ママさんも妊娠中から鍼灸治療をしていました。久しぶりに見たそのコは、げっそりと痩せ右目は腫れ上がり、右の首のリンパが固く岩のように腫れていました。脉状と合わせ見ると腎が弱り、肝気が滞って瘀血になっていました。風瘡という悪性のできもののようでした。挙動もおどおどして、胆も弱っています。でも、鍼灸をし始めると嘘のようにカラダがリラックスし始め、次第に診察台の上で伸びてうつらうつら始めます。毎週来るたびに、気持ち良さそうになって帰って行きますが、相変わらず一口も食べません。最後に来た日は、衰弱しきって呼吸も苦しそうでしたがやはり、お灸を始めると穏やかな呼吸になり、まどろんでしまい青みがかった鼻も、キレイなピンク色になりました。治療が終わって、バッグに入れようとすると診察台の橋に爪を掛けて、帰りたくない!と主張するのでした。実はお子さんが生まれてからは、育児に大変で前程ネコちゃんを構ってあげれたなかった事。子供が成長するにつれ男の子なので乱暴にしたり、ママに甘えたくてもお子さんが来たりで、じっと外から見つめている事が多かったとの事。そのことは薄々感じていたと、ママさんは話しながら涙ぐんでおられました。このマンションは、大好きなママちゃんと、二人で楽しく暮らした思い出の場所。その隣の部屋で気持ちいい治療をしてもらっている。きっとそんな風に思っていたのかも知れません。私もじじぃのせいかもらい泣きをしてしまいました。その三日後の朝方、夢を見ました。私がクリニックのドアを開けると、一匹のネコがクリニックの玄関から隣の部屋の玄関の前を横切り、非常階段のほうへ歩いて立ち去ろうとしていました。我が家のネコと同じ柄の子だったので「あれ?うちのネコちゃん逃げ出したかな?」と思ったけども、目が覚めて、ふと考えそのコがお別れに来たんだと感じました。そして、翌日の朝電話で、その日の早朝に穏やかにママの腕の中で息を引き取ったとの事でした。
飼い主様にお願いしたいこと、またはアドバイスはありますか?
どうぶつは人間のミニチュアでは有りません。心も精神も持った、1個の生命です。もちろんストレスも有ります。何でもかんでも制約したり、管理しすぎる事もダメです。元々、彼らはかごの鳥。自分の意志や要求で、行動出来ません。いかにしたら、美味しく、楽しく、健康で長生き(天命)出来るか考えて下さい。どうぶつ達は、あなたの表情、声、感情を良く見ています。飼い主の心身の健康がどうぶつ達の健康です。
最後に、先生の想いやメッセージをお伝えください。
鍼灸、中医学は魔法の杖では有りません。しかし、それを習得し、活用するならば必ずや自分の道や、どうぶつ達にとって一点の明かりとなり、正法へと導いてくれるでしょう。
ありがとうございました。
スノウメープル獣医東洋医学クリニック
獣医中医師 山内 健志
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